最近中国に関する本を何冊か買ったので、読み終わった本からレビューして行きたいと思います。まずはこちらから。
「中国新興企業の正体」
940円(税別)
2018年4月10日初版
沈才彬著
目次
序章 ニューエコノミーでもはや先進国の中国
- 打倒ウーバーを目指す配車アプリ「大手滴滴出行」
- 自転車シェアサービス最大手「モバイク」の神話
- 世界の空を舞うドローンを製造する「DJI」
- 日本では見かけないネット出前を広めた「饿了么」
- 東京オリンピックをターゲットにする、民泊中国最大手「途家」
- 研究開発費でアップルを凌ぐ「ファーウェイ」
- 中国の消費革命を牽引する「アリババ」
- グーグルに次ぐ世界2位の検索エンジン「百度」
- フェイスブックを急迫する「テンセント」
終章 世界に挑戦する中国のエコノミー企業
読後レビュー
目次を見た時点でワクワクが止まらないラインナップ。百度、アリババ、テンセントの「BAT」を始め、饿了么や滴滴などもはやないと生活できないレベルに利用しまくっていたサービスたち。その正体が分かると言うのだから期待度マックスでしたが、それを裏切らない充実した内容でした。取り上げられている9社全てに創業エピソードがあり、なんと言っても熱量が伝わってきます。
これまで消費者目線で接していた企業たちが、身近な存在に感じられる、そんな不思議な感覚。
せっかくなので1社1社印象に残ったエピソードを記します。
1. 滴滴出行
私が中国に滞在していた2016年はまだ周りにUBERを使う人もいました。体感だと、滴滴を使う人のほうがちょっと多いかな?という感じ。私も滴滴とUBERで運賃を比べながら安い方を使い分けていました。そんな状況が続くなか、徐々にUBERの運賃メリットがなくなってきて、車も捕まらないことが増えてきて、気づいたら滴滴ばかりを使うようになっていました。この本を読んでようやく熾烈な価格競争があったことと、UBERが手を引いたことが分かって納得しました。滴滴はこれから高級バージョンの滴滴専車が名前を変えて独立するというニュースもあるし、遠く離れた日本にいるけれどちょっとたのしみ。淘宝商城が天猫になったように、滴滴専用も誰もが知るひとつのサービスになるんだろうな。
2. モバイク
私が中国北京に滞在していた2016年〜2017年にどんどん街で見かけることが増えていったシェアリング自転車。すごい場所に乗り捨てている自転車を見かけたり、自宅で乗り捨ててはまた乗って、ほぼ私用化している記事なんかも見かけてこれ本当に大丈夫なのか?と思ったりもしたものですが、さすがは中国、こちらも信用制度があり、違反すると信用ポイントが引かれていき、一定以下のポイントになると一回あたりの利用料が跳ね上がると言う仕組み。よくできてる。そしてなによりルール違反の摘発を行うモバイク狩人の存在。主に年金生活をしている老人の方がその狩人を担っているそうで、摘発をして違反を認められるとポイントが入るというもの。外を歩き回る運動にもなるし、本当によくできています。
3. DJI
でた、深セン…!って最近よくなるのですが。言わずもがなこちらも世界を代表するドローン企業。深センというと、勝手にハードのイメージが強いですが最近とにかくあらゆる方面の記事で深センの勢いがすごいと目にします。香港のすぐ近くという地理的利点や必要な部品が深センで全て揃うという環境がスピード感を後押ししているのかもしれません。深センにはいかなか
4. 饿了么
2016年、これがないともう生きていけないレベルで活用していた外卖。私は饿了么派でしたが、当時北京は百度を使っている人も美団を使っている人もいました。同じく2016年上海に行くことも多かったのですが、上海では饿了么のバイクが多いこと。そりゃそのはず、饿了么は上海発の会社なのです。しかも、もともと大学生たちが大学構内でスタートしたのがはじまり!(大学といっても5万人を抱え、「小さく始める」の単位が日本とは比べ物にならないほど大きいですが…)
上海を訪れた際、饿了么早餐の青い袋を抱えて上海金融中心に出勤するエリートたちの姿が今だに印象的です。
そして饿了么といえば2018年2月に阿里巴巴に買収されたのもビックリしたニュースのひとつ。先述した百度外卖は一足先に饿了么によって買収されています。もう一つ大手といえば美团と大众点评が合併して出来た美团点评の外卖。こちらにはテンセントの資本が入っており、中国の外卖業界はアリババvsテンセントの縮図だなと思います。本当にスマホを開いて10分後にはランチセットが届く手軽さは最強でした。はやく日本もそうなるといいなぁ。近所のファーストフード店の店員のお姉さんと注文来るまで店で待機している外卖小哥(デリバリーのお兄さん)が仲良くおしゃべりしてるのを見るのも好きだった。
5. 途家
以前中国版エアビーとして記事にしたこともある途家。中国大手の民泊サイトです。
この本を読んでも改めて思ったのは、中国の民泊需要は訪中外国人ではなく国内旅行の中国人にあるということ。
私が北京にいた頃、観光地に行くたびに印象的だったのは(特に天安門)そこに訪れている人がほぼ中国人だということ。日本の観光地に外国人が沢山いる風景とは一見大きく異なる風景でした。おそらく地方からはるばる北京に来たであろう色とりどりのダウンジャケットを着た団体旅行の人たち。上海の金茂タワーに行った時も明らかに地方から来たであろう年配の団体旅行の人たちが記念撮影をしていてほっこりした記憶があります。
途家はまだまだ日本で見聞きすることはないですが、日本に訪れる中国人向けにどんな展開を見せるのか楽しみです。
6. ファーウェイ
本を読んで、秩序に基づいた組織なのだと知る。知り合いの中国人が「中国製のスマホは使いたくないが、ファーウェイだけはマシだ」と言っていたのを思い出します。会長の任会長はメディアにもほとんど出てこず「これまで失敗のことしか考えてこなかった」「成功は見なかったことにした」など慎重なその姿勢には中国のイメージが変わるような不思議な気持ちになります。
7. アリババ
馬雲についてのエピソードはこれまでもいくつか耳にすることはありましたが、落第続きで決して優秀な学生とは言えなかったことなどは改めて意外でした。でも、一貫して感じるのは強烈なポジティブ思考。とても外向的で、なんだかアメリカのスタートアップ物語を読むときと似た気持ちになりました。アメリカで公演をした際、公演に来ていたアメリカの方が数十年の時を経て「杭州でガイドをしてくれたことを覚えていますか?」という看板を掲げていたというエピソードは感動した。。本当に、人生どこで繋がるかわからない。あと、馬雲と世界各国の首脳が会談したがるというエピソード。ECサイトももここまでくると国と国の貿易問題に介入できるのかと、新しい発見。
8. 百度
didiに百度の人材がいるように、中国のベンチャー界隈はどこまでも繋がっているイメージ。百度の検索エンジンもアメリカで着想を得たとのことで、ソフトバンクの孫さんしかり若いうちに海外に出て、持って帰ってくる人の存在は大きいなと。自分が学生の時にはわからなかったけど、海外に行きなさい、留学に行きなさいと言われていた理由もわかる気がします。百度は時価総額で見るといわゆるユニコーン企業には及ばない現状があります。外卖などの既存事業を売却し、自動運転の世界にシフトしている姿勢には検索エンジンだけに頼らない潔さを感じます。没事看一看,有事搜一搜。百度のキャッチコピーすごく好きです。
9. テンセント
テンセントの時価総額がすごいことになっていますが、さすがにウィーチャットはすごいの一言。私が中国にいた2016年もQRコード決済が当たり前で既に財布を持たない世界だったのですが、その頃は若い人はウィーチャットペイを使って社会人はアリペイを使ってるイメージでした。かくいう私も主にアリペイを使っていたのですが(まわりがアリペイで送金してくること、饿了么がアリペイ対応だったから)なんとなく今後はウィーチャットペイが主流になる気もしてます。というのも中国では友達の誕生日でさえウィーチャットペイで「お金」を送ることがもはや慣例になっており、もらったお金のスクショをモーメンツにあげるのはもはや定番。。アリペイにはない開かれたお金のコミュニティを感じるのは私だけでしょうか。何かしてもらったときにも気軽にウィーチャットペイで送金したり、その場で出会った見知らぬ人と滴滴相乗りしてウィーチャットペイでお金をもらったり。ラインを交換するような気軽さなので電話番号とダイレクトに結びついたアリペイを交換するよりも心理的なハードルがだいぶ低い気がします。そしてテンセントといえばQQが懐かしすぎる。2013年韓国留学していた頃は中国の友人とQQを交換したものです。この辺りも本で読み返すと面白い。
まとめ
そんな中で9社に共通して言えるなと思うのは、積極的に外資を獲りにいっているところ。
また、最近の傾向でいうとアリババ、テンセントいずれかの資本が入っていることも日本ではあまり目にしない一騎打ち構図で面白い!9社ともに、なるほどーと唸る取り組みがあり、この一冊でいわゆる中国のユニコーン企業の創業から現在に至るまでのエピソードがつかめると思います。私も改めて理解できて面白かった!
面白かったので長くなりましたが、このあたりで。